笑健康願事です
私がヨーロッパに留学していた頃
ちょうど梅雨時の こんな雨が降り続く夜に聞いた話です
今日は同じ場所にお連れしましょう
口達者な男が、牧師のいない教会に行き 得意だったピアノを弾きながら賛美歌を歌い
人気者になる
いつのまにか牧師になりすまし、町の人を騙し始め 土曜の晩から日曜にかけて
だけ酒を断ち二つの顔を入れ替えていた
迷える人の懺悔を貪り 寄付金を稼ぎ 食い物にし
悪魔との取引を楽しみ 魂を売った
その日を境に、町人が一人ずつ謎の死を遂げていった
聖夜を伝える鐘の音を鳴らす紐はもつれ合い 小さな街に響き渡る
重厚な音はどす黒い雨雲を引き裂き 落雷を呼び
人々の恐怖の叫び声は 嵐に消されていった
これから何が起こるのか知る由もなく 時化で仕事を追われた水夫は丘に上がり
墓穴をただひたすら掘り始める
いくつもいくつも 何かに取り憑かれたように
その牧師がいいと言うまで、、知らぬ間に掘られた穴はいくつも土が盛られ
十字架が複数立ち並んでいた
私はそれを目撃した時、吐き気を催し その土地の横にあるいかがわしい落書きを何重にも消した後のある 薄汚れた公衆トイレに入った
洗面台の上に貼られた鏡に目をやると、そこにはあの牧師が佇み微笑んでいた
私は怯えた心を隠し牧師に話しかけた「牧師どうしました?」
と牧師は「これから私を市長と呼びなさい」と言い残し去っていった
何のために何の目的で町に来たのか
人が一人ずつ消えていくこの現実をどう受け止めていいのか
牧師を疑う者は誰もいなかった
街の人々は牧師に命乞いをし 多額の財産を教会につぎ込んだ
私は恐ろしくなり 訳が分からぬまま この街は後にしました
何年かが過ぎただろうか
TVの画面からとある国の大統領選挙が中継されていて、候補者の中にあの牧師がNO1と
人差し指を天に向け笑っていた
あの牧師が貧しい故郷に背を向けた時、右手には夢 左手には80ドルを握りしめていただけの青年だったが
今や、片手には権力
もうひとつの手には世界を滅すボタンを押せる指がそこにあった