宝物を握りしめられていられる時間

とある日曜の朝、まだ羽も生えていない天使が

神様の手をすり抜け舞い降りてきた

途中休憩するはずの雲がひとつもない空から…

抱きかかえた子は、疑いもなく ちょっぴり意地悪で 可愛い女の子

この子を悲しませたら、将来 天国で門前払いを食らい

それを甘んじて受け止める覚悟が必要だと 肝に銘じた

だからこそ 素敵な人間に育てようと

時を積み重ねて行く度に、説教の数も増え 最後に言う言葉も決まっていた

「現世の生き方で、来世が決まる まっすぐ歩いて行かないと、

来世で変な生き物になっちゃうぞ」 と

彼女は成長し こう答えたことがあった

「真っ直ぐ歩かないと、来世は蟹になっちゃうの?」

あれ以来俺は蟹を食わなくなった

瞼を閉じる日を重ね、共に過ごす時間も 世間の風に削られ

お弁当作り チョコレートの絵本読み 夜中の毛布かけ 宿題 学芸会

音楽会 運動会 遠足 やんちゃな膝の傷も 全て無縁になった

知らぬ間に羽を広げ 自由に飛び立つようになり 

頭の上にあったかワッカは重いと手放し 愛犬ディゴのフリスビーにしていた

そのうち、自分の羽では物足りなくなり パイロットを目指し防衛大学校に入学

全寮制で帰宅するのも 年に片手で数える程度

また、コロナで追い討ちをくらい学校閉鎖  外出禁止と会えない状態

このままでは、今年の卒業式のようにコロナの影響で 

来年も 卒業式での帽子投げの晴れ姿も 親は見れなくなる

早い終息を願うだけだ

親離れをした 空を舞う天使は、翼がないと気が済まないらしい

そう遠くない日に、空を舞う彼女が誕生するだろう

運が良ければ、すぐそこの基地をベースに飛び立てるかもしれない

そうなると、家の上空を必ず飛び回る  

あの笑顔が見れなくても、無事を祈り 毎日空を見上げていれば

寂しい時涙で貴重なマスクを濡らさずに済む

目の前にいる子供と一緒にいられるのは ほんのわずかな時間だけ

後悔しないように

一つだけ言える確かな事は

子が夢を掴むために 家族全員がその賭けに乗ったということ

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