そこで見た太陽は あたかも初めて出会ったかのようなフリをしていたが……
やたらキラキラ眩しく 心と体が現実から遠ざかり 唯一頭の中にしがみついていた
「生きていたい」という祈りが 疑ったことはただ一つ 「ここはどこ?」
予定10時間で終わるはずの食道がん手術が、14時間も戻ることができなかったのは以前の肺気胸を患っていたせいで、
肺を潰し停止させることに、かなり先生方を手こずらせてしまったようだ
待っていた家族は もうだめだと覚悟していたらしい
その時、無宗教の大塚家はとっさに妻が編み出した 胸で十字ではなく 胸で二等辺三角形のほ~ほけ経が生まれた
神に祈るのではなく、ディズニーの「星に願いを」を口ずさんでいたらしい
本当のことです ピノキオの気持ちが少し分かる
入院中ロビーで知り合った 元大手お菓子メーカーの重役さんが心臓病で
意識不明6回 心肺停止2度 死んで生き返ったと
あと1回で 「007は二度死ぬ ジェームスボンドだよ」と
まるで 木工用ボンドのような真っ白な顔をして ジョークをかまし
三途の川で光を見たと語っていた 俺にはジョークに聞こえなかった
あれから2年を費やしても、壊した体を今だ ちゃらにはできないが、
あの頃の日記や写真を、抵抗なく開けるようになり 弱かった自分があの空間にいたと認めることができる心だけは 穏やかに過ごせるようになった
帰ってこれたのは、家族や友達が引き戻してくれた あの時の光のおかげかもしれない
今世話になっている太陽の光ではないことだけは確かだ
だって手術室には窓がないから 綺麗事はこの辺にしておこう
「 生きよう」
死んで「神様 仏様」と言われるより 生きて「何様だ」と言われたほうがましだ