このお話は実話 ノンフィクションであり 絶対に秘密です
ICU に入っている時、一度だけ看護師さんに頭と足を洗ってもらいました
それは大変な作業で、ベッドを逆に折り曲げ 倒し 体を後ろに反り空中で洗うのです
2週間近くいて一度だけ洗ってもらいました
俺は神経質に金メッキを塗りたくったぐらい汚れが嫌いな人間 超綺麗好きです
次に入った HCU の部屋は、トイレと洗面台が入り口についていました
ベッドから2 m ぐらいのところ 歩いて5,6歩
「洗いたい」
だが体には、心電図 何本ものチューブ 口には酸素マスク 指には心拍数を測る機械
行動範囲 半径50 cmがやっと
「洗っちゃおうかな」
まだ歯も洗面台で磨けない状態
一日考えました
チューブは何とか途中まで届きそう 他は無理だ
心電図や心拍数が止まれば、看護師さんがナースステーションから飛んでくる
外せない…….
まるで、刑務所のアルカトラズを脱獄 するみたいな計画を練りました
看護師さんの定期検診は1日何回? 何時に来る?
下調べをノートに書きチャンスタイムを実行に移す!
心電図を太ももに 指の脈拍は足の親指に 酸素マスクは我慢
体を斜め四十五度 うつ伏せにして、そして洗面台に限界まで体を伸ばし
頭を持って行き
「洗えた」
シャンプーの泡は少し残りましたが、急いで戻り リンスなんか余裕もない
「気持ちいい~~~~~」
あんな気持ちの良いシャンプーは、インドエベレスト以来
いやそれ以上かも
まだ声が出せなかったので、妻に紙に書いて伝えたら
妻は 「ちっ」舌打ち一発
心の声 「だってベタベタだったんだもん」とリアクションで訴えたら
妻は酸素マスクの機械のスイッチに指を置き一言
「消すよ」
看護師さんより怖い
以来 内緒で繰り返していました
慣れてくると、脇の下まで洗えるようになり
大事なデンジャラスゾーンは一般病棟に戻り、シャワー OK が出るまで我慢
妻が帰り際に、「いい子でいなさいよ」と
俺は紙に 「わかりました」と敬語で書きました
忘れていました
誰に見つかってもいい ただ妻だけにはバレないようにしないと
アルカトラズに入っていた方が安全だと 気づきました