初恋

本当の初恋を辿ってみたことがありますか

年を重ねるごとに薄れてゆく記憶 いつまでも覚えておきたい

その人は、この世に存在する人物ではなかった そしてキューピットは父

俺は、ピカソが描いた絵のように 理解に苦しむ 真面目で一途と言われ

父は、シャガールが鉄のキャンパスに 強さと優しさを描いたような人でした

半世紀前の銀行員は、一年を通して盆と正月 合わせて6日間しか休めず

日曜祭日は接待ゴルフ 帰宅は午前様

父の顔を見るのは 朝の数分 もちろん 家族旅行や遊んでもらった記憶はゼロ

父の日に描いた絵も 背中向きの姿

そんな父は、俺達に毎晩 寿司だケーキだと手土産を買ってきては 

朝冷蔵庫を開ける俺たちの喜ぶ顔を見るのが好きで ほんの束の間でも通じたかったのでしょう

その時のケーキの包装紙に、あの不二家のペコちゃんの顔が

幼心をくすぐり ときめき それが初恋でした

ある日、母に勇気を出し「この子誰?」と尋ねると

「この子ペコちゃん お父さんは、お店でケーキやミルキーを作っている人の子だよ」と

思い起こせば、あの日から 母の俺をおちょくる趣味が始まったのだと気づきました

疑いもなく小さなハートで、ペコちゃんに会えると信じ込み 10円玉をいっぱい握りしめ
ポケットに突っ込み 父の会社のそばにある不二家を目指した

家では、新品のランドセルが玄関先に投げ出してあり 夕方になっても帰ってこない

と大騒ぎだったそうです

母曰く あれ以来「お前は女好きになる」と口癖のように…

ペコちゃんが原点なのかはわかりませんが 目がぱっちりの子ばかり好きになっていたような

今でも、軸足は触れていません

また、どんな豪華で賞を取ったケーキよりも あのシンプルで いちごの乗ったショートケーキと 単純な栗が乗ったモンブランが好きでした

もしも、初恋が実り ペコちゃんを嫁にもらっていたら

不二家の跡継ぎになり 夜遊びもせず 朝食はペコちゃんのほっぺを食べ 

髪も髭も伸ばさず 音楽は聴くだけ 食品開発に目覚め 

悲しい時、涙が止まるペコちゃんの瞳 略して「ぺこ あい(目)」という飴を作っていただろう
この初恋は今でも続いています 

嫁が買ってきてくれたミルキーを口に放り込むたびに

出来なかった夢 父とのキャッチボールをする姿を想像しています

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